開業医が間違えやすいお金の使い方3選
はじめに:開業医の節税・資金繰りの誤解
開業医にとって、節税と資金繰りの判断は経営を大きく左右する重要なテーマです。 「節税のために設備を導入したけど使っていない」「経費にできると思って支出したら現金が足りなくなった」「人件費を削ったらスタッフの不満が噴出した」——これは、実際に開業医の先生方からよく耳にする声です。
診療に専念しつつ、経営も担わなければならない開業医。特に、開業して数年以内のクリニックでは、毎月のキャッシュフローに神経をとがらせながら経営判断を下しているケースが多く、判断ミスが経営を大きく揺るがすこともあります。
本稿では、開業医の資金繰り、節税、経費、人件費に関する判断ミスをもとに、経営視点からの改善ポイントを解説します。
節税と資金繰りに効く設備投資判断
節税が目的化していないか?
「利益が出そうだから、とりあえず高額な医療機器を購入して経費にした」というケース。
これは、開業医によく見られる典型的なパターンの一つです。
「設備投資をすれば減価償却によって帳簿上の利益が少なくなり、結果として税額を抑えることができますよ」と助言を受け、実際に導入したものの、十分に設備や機械が活用できなかったため、次年度以降の資金繰りや保守費用の負担に悩まされるケースもあります。
設備や機械投資は、未来の収益や診療の質にどうつながるかを見極めずに支出すると、経営体力を奪う結果になります。利益になるかならないか、投資判断のポイントは収支計画や経営戦略にもとづいて行うことが重要です。
投資をする前のチェックポイント
購入を検討する際には、以下のような視点を持つことが重要です。
- これは将来的な売上が見込めるのか?
- 実際にどれだけ使用頻度があるか、運用できるスタッフはいるか?
- その機器による患者満足度やリピート率向上は見込めるか?
- 購入した後の資金繰りはどうなるか?購入して売上がたたない場合を予測しているか?
「節税のための投資」が、「無駄な支出」と紙一重であることを忘れずにいたいものです。
開業医が見落としがちな経費判断
経費も現金支出と理解する
税務的には経費で落ちる支出でも、実際には手元の現金が減ります。これは、帳簿とキャッシュフローの違いを理解していないと陥りがちなミスです。
ある皮膚科の院長は、「SNS広告に月20万円投下していたが、実際の反響が乏しかった」と話します。「とにかく露出を増やせば患者が増える」と思い込み、広告代理店に任せきりだったことが原因でした。
周りがSNS広告をやっていたから、とりあえずやってみた!ではなく、自院にあっているかも含めて判断することが重要です。
必要な支出か“自院基準”で見極める
経費は「使えるから使う」のではなく、「使うことで何が得られるか」を判断基準にする必要があります。
- 本当に今この広告が必要か?
- 他の支出を削ってまで優先すべきか?他に優先する支出はないか?
- 自院の方針や患者層と合っているか?
特に医療機関は、患者との信頼関係が大切なため、広告などのブランディング費用も戦略的に考える必要があります。
人件費は開業医にとって最大の投資
採用にお金をかける意味
「いい人を採用したいけど、高い給料は出せない」と悩む開業医は多いですが、人材はクリニック経営において最も重要なリソースの一つです。
ある美容クリニックの院長は、開業時に“安く雇える未経験者”ばかりを採用しました。その結果、業務の属人化や教育コストが重なり、結果的に自分自身の診療時間が圧迫されてしまったと語ります。
一方で、「マネジメント経験のある事務長を高待遇で採用」したクリニックでは、経営や事務作業、スタッフ管理の一部を任せたことで、院長が診療に集中できる環境が整い、結果的に収益も向上しました。
スタッフ構成と相性も考慮
人材はスキルだけでなく、チームワークも非常に重要です。
採用した後に、良きチームメンバーとして活躍できるかもチェックしていきましょう。
- 育成に時間をかけられる余裕があるか?
- 即戦力を求めるなら、それに見合う報酬を現状の売上状況で出せるか?
- チーム全体のバランスを崩していないか?
「人にかけるお金」は、そのままクリニックの生産性に直結します。高い人件費=無駄ではなく、「その人材が生む価値」を基準に判断すべきです。
まとめ:節税と資金繰りを強化するお金の使い方
クリニック経営では、ただ支出を抑えるのではなく、「必要なところには投資する」視点が何よりも重要です。
- 節税が目的化していないか?
- 経費=現金支出という意識を持っているか?
- 人材は“コスト”ではなく“リターン”を生む投資と捉えているか?
このような考え方を持つことで、数年後の経営の安定性や、院長自身の時間的・精神的余裕がまったく異なるものになります。
「診療に集中できる経営体制」をつくるために、今あるお金をどこに使うか。これは、開業医としての「経営判断力」が試される最も大きなポイントです。
そんな体制を作りたい!!そんな方は、お気軽にご相談ください。
よくある質問
Q1. 節税のための設備購入はダメですか?
A. 必ずしもダメではありませんが、「その設備が本当に必要か」「診療に貢献するか」を検討してから購入しましょう。節税は手段であり、目的ではありません。
Q2. 経費なら現金が減っても問題ない?
A. 経費であっても現金は出ていきます。キャッシュフローの悪化を招く恐れがあるため、慎重に判断しましょう。
Q3. 人件費を抑えるのは間違いですか?
A. 人件費を安く抑えることでかえって生産性が下がるケースもあります。優秀な人材には相応の報酬を払い、その人材が生む価値を考慮すべきです。ただし、高い給料設定をして、後ほど資金繰りが厳しくなったとならないような設計をしていきましょう。