クリニック経営の赤字を立て直す|原因と実践ステップを解説
最終更新日:2026.06.10
「毎月の試算表を見るのが怖くなってきた」「スタッフに給料は払えているけど、自分の報酬を削り続けている」――こうした状況で、深夜に「クリニック 経営 赤字 立て直し」と検索されているとしたら、あなたの焦りと孤独感は私にはよくわかります。
私は看護師として10年以上、急性期病棟から外来まで現場を経験し、その後MBAを取得して医療経営コンサルタントとして独立しました。これまで数十のクリニックの経営改善に携わってきた中で、「赤字には必ずパターンがある」ということを実感しています。
この記事では、赤字クリニックに共通する原因の見つけ方から、すぐに着手できる立て直しの具体的な手順まで、現場の実態に即して解説します。「読んだけど何をすればいいかわからなかった」とはならないよう、実務レベルで使える内容にまとめました。
赤字クリニックに共通する「3つの死角」
私がコンサルに入ったクリニックで最初に行うのは、財務データと現場オペレーションの両方を照らし合わせることです。その中で、赤字の原因として繰り返し登場する「死角」が3つあります。
① 「売上は悪くないのに赤字」という構造的コスト問題
ある内科クリニックでは、月の延べ患者数が800人を超えているにもかかわらず、毎月50〜80万円の赤字が続いていました。調べてみると、人件費率が売上の62%に達していました。一般的に、クリニックの人件費率の目安は40〜50%程度が多く、これが経営を圧迫していた主因でした。
問題は「スタッフが多すぎる」のではなく、シフトの組み方が非効率で、患者が少ない時間帯にも常に3名体制を敷いていたことでした。ピーク時間帯の分析と業務の棚卸しで、年間で約300万円近いコスト改善につながりました。
② レセプト漏れ・査定損の「見えない失血」
看護師時代、私が外来で働いていた頃、医師が口頭で指示した処置が記録に残っておらず、算定漏れになっているケースを何度も目にしました。コンサルタントになってからも、この「見えない失血」は驚くほど多くのクリニックで起きています。
あるクリニックでは、初診料の加算や特定疾患療養管理料の算定漏れを洗い出したところ、月に15〜20万円分の取りこぼしが判明しました。年換算で180〜240万円です。これは売上を増やすのではなく、「すでに提供しているサービスへの正当な対価を受け取る」だけで解決できます。
③ 集患の「努力の方向」がズレている
「広告費を増やしたのに患者が増えない」というご相談も多くいただきます。その多くは、新患獲得にばかり投資して、既存患者の離脱を防ぐ仕組みがない状態です。新患1人を獲得するコストは、既存患者1人をリピートさせるコストの5倍以上かかると言われています。まず既存患者の定着率を上げる施策の方が費用対効果は高いのです。
赤字立て直しの実践ステップ|まず「今月中」にやること
赤字の立て直しは、大きな改革よりも「小さな止血」の積み重ねから始まります。以下のステップを順番に実行してみてください。
ステップ1|直近3ヶ月の費用を4項目に仕分けする
- 人件費(常勤・非常勤・院長報酬含む)
- 医薬品・材料費
- 家賃・リース料(固定費)
- その他経費(広告・雑費等)
この4項目を売上に対する比率で出してください。感覚値と実数値がズレているクリニックが非常に多いです。「なんとなく赤字」から「どこが問題か」を可視化するのがこのステップの目的です。
ステップ2|レセプトの算定漏れ・査定状況を確認する
直近3ヶ月のレセプトについて、以下の視点でチェックしてみてください。医事スタッフと一緒に30分でも確認するだけで発見があります。
- 初診・再診の加算(時間外、乳幼児等)が適切に算定されているか
- 慢性疾患管理に関する管理料が毎月算定されているか
- 処置・検査の記録と算定が一致しているか
- 査定率が高い項目に偏りがないか(レセコンのデータで確認可能)
ステップ3|「いつ・誰が・何をするか」の業務フローを見直す
コスト削減というと「人を減らす」発想になりがちですが、私が現場でよく見るのは「ムダな動き」の問題です。たとえば、看護師が電話対応・会計補助・処置をすべて掛け持ちしていて、どれも中途半端になっているケース。業務の棚卸しをして、「この業務は誰がやるべきか」を再定義するだけで生産性は大きく変わります。
ステップ4|患者単価と患者数の両面から収益構造を分析する
月の売上 = 患者数 × 患者単価 です。どちらが問題なのかを分けて考えることが重要です。
- 患者数は十分なのに単価が低い → 算定漏れ・サービスの見直し
- 単価は平均的だが患者数が少ない → 集患・認知・リピート強化
- 両方低い → 診療科の特性・立地・競合環境の総合的な見直し
「やりがちな失敗」に注意する
赤字立て直しの場面でよく見られる、かえって状況を悪化させる行動があります。
失敗例①:コスト削減のために優秀なスタッフを失う
人件費を削減しようとして、非常勤スタッフから順番に契約を打ち切ったクリニックで、残ったスタッフの負担が増加し、中心的な常勤看護師が退職するという事態が起きました。採用・育成コストは短期的な削減額を大きく上回ることがあります。「誰を残すか」より「どう機能させるか」を先に考えてください。
失敗例②:集患策を焦って乱打する
赤字が続くと「とにかく患者を増やさなければ」と焦り、SNS・チラシ・ポータルサイト登録を同時に始めるケースがあります。しかし効果測定ができないまま費用だけが積み上がり、半年後に「何も効かなかった」と撤退することになります。まず1つの施策に絞り、3ヶ月間数値で検証してから次の手を打つことを強くお勧めします。
黒字化した後も続く「体質改善」の考え方
一時的な赤字解消ではなく、経営が安定するクリニックには共通点があります。それは「財務の数字を月1回、院長自身が必ず確認する習慣」があることです。税理士任せにしていると、問題が深刻になるまで気づけないことが多いのです。
月次の確認項目として最低限、以下の3つを押さえておくことをお勧めします。
- 売上(レセプト請求額)の前月・前年同月比
- 人件費率(目安として売上の45〜50%以内)
- 現預金残高の増減トレンド
まとめ|赤字のクリニックに「奇跡の一手」はない。でも確実な処方箋はある。
クリニックの赤字は、複数の小さな問題が積み重なって起きていることがほとんどです。特効薬のような単一の解決策はありませんが、「見えていなかったものを見える化する」「正当な対価を受け取る」「コストの使い方を整理する」という3つの方向性で、着実に改善していくことはできます。
私自身、看護師として現場にいたからこそ、「医師が診療に集中すれば自然とうまくいく」という時代はもう終わったことを肌で感じています。クリニック経営は、医療の質と経営の質を同時に高めていく必要があります。
もし「自分のクリニックの場合はどこから手をつければいいか」「数字の見方がそもそもわからない」という方は、ぜひ合同会社mizuにご相談ください。財務データと現場オペレーションの両面から、あなたのクリニックの状況を丁寧に整理し、実行可能な改善策を一緒に考えます。まずは初回の無料相談からお気軽にどうぞ。
よくある質問
- Q. クリニックの人件費率はどのくらいが適正ですか?
- 一般的にクリニックの人件費率は売上の40〜50%程度が目安とされています。これを超えている場合は、シフト体制の見直しや業務分担の最適化から着手することで、診療の質を落とさずにコスト改善できるケースが多くあります。
- Q. レセプトの算定漏れはどうやって見つければよいですか?
- まず直近3ヶ月分のレセプトを対象に、初診・再診加算の取得状況や慢性疾患管理料の算定状況を医事スタッフと一緒に確認するところから始めてください。レセコンの査定率データを活用すると、漏れが集中している項目を効率よく特定できます。月15〜20万円規模の取りこぼしが見つかるケースも珍しくありません。
- Q. 赤字が続いているのに広告費を増やすべきでしょうか?
- 新患獲得よりも既存患者の定着率向上を先に取り組む方が費用対効果は高い傾向があります。広告施策を行う場合は1つに絞って3ヶ月間数値で検証してから次の手を打つことを推奨します。効果測定の仕組みなしに複数施策を同時展開すると、費用だけが積み上がるリスクがあります。
References
- Chou AF, et al. Factors influencing physicians’ billing and coding practices in ambulatory care settings. J Gen Intern Med. PubMed
- 厚生労働省・中央社会保険医療協議会. 第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告. 2021年. 厚生労働省
- Tsai TC, et al. Administrative costs associated with physician billing and insurance-related activities at an academic health care system. JAMA. PubMed
- Reichheld FF. Loyalty-based management. Harv Bus Rev. 1993;71(2):64-73. PubMed
- Weeks WB, et al. The unmet business case for patient-centered care. J Gen Intern Med. PubMed
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看護師・MBA(経営学修士)
クリニックの運営支援(経営・マーケティング・人事マネジメント)、保険診療クリニックへの自費診療導入、電子カルテやシステム導入まで幅広く対応。単なる助言ではなく、現場にあわせて伴走するスタイル。
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