クリニック事業計画書の書き方|7つの構成と審査通過のコツ
最終更新日:2026.06.10
クリニックの事業計画書、何から書けばいいか分からなくて止まっていませんか?
「事業計画書を作らなければいけないのは分かっている。でも、何をどの順番で書けばいいのか分からない」——開業を前にした先生、あるいは経営の立て直しを迫られている院長先生から、こういう相談を受けることが少なくありません。
銀行から「事業計画書を出してください」と言われ、ネットで調べてみたら、どれもビジネス向けのテンプレートばかり。医療特有の保険診療の仕組みや、スタッフ採用のコスト、患者数の増え方の特性が、一般的な書き方には反映されていないのです。
この記事では、クリニック経営に特化した事業計画書の書き方を、構成・各項目の書き方・よくある失敗まで一通り解説します。読み終えた後にそのまま着手できるよう、実務的な視点で整理しました。
- 事業計画書に必要な7つの構成要素
- 各項目で押さえるべき数字と根拠の作り方
- 金融機関・投資家に「刺さる」計画書と「通らない」計画書の違い
- 開業1〜3年目でよく起きる計画書の失敗パターン
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なぜクリニックの事業計画書は一般企業と書き方が違うのか
一般企業の事業計画書と、クリニックの事業計画書は、構造の前提からして異なります。その最大の理由は、売上の大部分が保険診療という公定価格に縛られているという点です。
内科・小児科・皮膚科などの保険診療中心のクリニックは、1患者あたりの診療報酬が診療報酬点数表によってほぼ決まっています。「値上げ」という選択肢が原則としてないため、売上を伸ばすためには患者数を増やすか、自費診療メニューを拡充するしかありません。
一方で、人件費・医薬品費・医療材料費といった主要コストはいずれも高水準です。厚生労働省「医療経済実態調査」(令和5年)によれば、診療所の損益差額率の中央値はおよそ10〜20%台にとどまり、一般的なサービス業と比べて利益率が構造的に低い業態です。こうした業界特性を踏まえた計画書でなければ、金融機関の審査担当者も「現場を理解していない計画」と判断します。
自院で自費診療メニューの設計に関わった経験から言うと、保険診療だけで収益を積み上げようとする計画は、外来患者数の想定が少し外れるだけで赤字転落するリスクをはらんでいます。事業計画書の段階から「保険と自費の収益ミックス」を意識することが、持続可能な経営につながります。
クリニック事業計画書の7つの構成要素
① エグゼクティブサマリー(概要)
事業計画書の冒頭に置く1〜2ページの概要です。「このクリニックは何者で、誰に何を提供し、どう収益を得るのか」を端的にまとめます。読み手の多くは最初にここだけ読んで「先を読む価値があるか」を判断するため、曖昧な表現は禁物です。
開業地・診療科目・ターゲット患者層・月次目標患者数・開業3年後の売上目標を、数字を交えて簡潔に記載してください。
② 市場分析・商圏調査
商圏内の人口構成、競合医療機関の分布、診療需要の推計を示すパートです。金融機関が最も気にする「そこで本当にやっていけるのか」という問いに答える箇所でもあります。
具体的には以下のデータを活用してください。
- 国勢調査・住民基本台帳(総務省):半径1〜2km圏内の人口・年齢構成
- 医療施設調査(厚生労働省):同一診療科の競合施設数・分布
- 地域医療構想(各都道府県):地域の医療需要予測
「このエリアは高齢化率が高いため、慢性疾患の外来需要が安定している」「近隣3km以内に同一診療科は2院のみで、週末診療の空白がある」といった形で、データから読み取った競合優位性を言語化することが重要です。
③ サービス・診療内容の設計
何科を、誰に対して、どのように提供するかを具体化します。保険診療の基本メニューに加え、自費診療メニューを設ける場合はその位置づけと価格帯、想定患者数も記載します。
ここでよく見られる失敗が、「とりあえず検診や予防接種も自費でやります」と並べるだけで、単価・提供頻度・必要な設備投資の試算が抜け落ちているケースです。自費メニューは1件あたりの粗利が高い反面、集客コストと初期設備投資が別途かかります。サービスごとに粗利計算を添付することを強くお勧めします。
④ 収支計画(PLの作成)
事業計画書の核心です。以下の項目を月次・年次で作成します。
- 売上:保険診療売上(延べ患者数×1患者あたり単価)+自費診療売上
- 変動費:医薬品費・医療材料費(売上の20〜25%が目安)
- 固定費:人件費・家賃・リース料・通信費・医師報酬
- EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)
- 借入返済後の実質手残り
患者数の想定は「ベースケース」「悲観ケース」の2パターンを用意し、悲観ケースでも借入返済が継続できる構造を示すことが審査通過のポイントです。開業3〜6ヶ月は患者数が計画の50〜60%に止まるケースが珍しくないため、その期間の運転資金も計画に組み込んでください。
⑤ 資金計画・調達計画
初期投資総額(内装・医療機器・電子カルテ・備品)、自己資金、借入金額、返済期間・条件を記載します。日本政策金融公庫や民間銀行への融資申請を想定する場合は、返済シミュレーション(月次返済額÷月次営業キャッシュフロー)を必ず添付してください。
一般的に、医療機器は購入よりリース・レンタルで初期投資を抑える選択肢も検討に値します。資金計画表には「購入」「リース」の両シナリオを並べて比較すると、投資判断の根拠が明確になります。
⑥ 組織・採用計画
開業時・1年後・3年後のスタッフ構成(医師・看護師・医療事務・その他)と採用コスト、給与水準を記載します。クリニック経営で最もコントロールが難しいのが人件費です。
日本看護協会「2023年 病院看護・助産実態調査」によれば、看護職員の離職率は常勤で10.9%(2022年)と報告されています。小規模クリニックはこれより高い傾向があり、採用・育成コストは事業計画書の時点から「1名離職=採用費○万円+育成3ヶ月分の人件費」として数値化しておくと、計画の精度が上がります。
⑦ リスクシナリオと対策
「うまくいった時の計画だけ書いてある事業計画書」は、審査担当者の信頼を下げます。主要リスクとその対策を1ページ程度でまとめてください。
- 診療報酬改定による収入減リスク
- 競合医院の新規開業リスク
- 院長の疾患・長期不在リスク
- 主要スタッフの一斉退職リスク
数字の根拠を作る:患者数予測の現実的な考え方
事業計画書で最も「甘くなりがち」な箇所が、患者数の予測です。「近隣に競合が少ないから1日50人は来る」という根拠のない楽観は、計画書の信用を一気に落とします。
現実的な患者数予測には、以下の3ステップを踏んでください。
- 商圏人口から需要推計:商圏1km圏内の人口×診療科の受診率(厚生労働省「患者調査」に診療科別受療率データあり)
- 競合シェアを差し引く:需要推計÷商圏内の同診療科医院数×自院の立地優位係数
- 開業フェーズを分ける:開業1〜3ヶ月目・4〜6ヶ月目・7ヶ月目以降で段階的な患者数を設定する
実際に自費診療を含むクリニックの収益計画を設計した際も、「受療率×人口」から出発した積み上げ計算が、のちに現場数字との乖離を検証しやすい計画になると実感しました。
金融機関の審査を通す計画書の書き方:ここが差になる
「なぜあなたがこのエリアで開業するのか」のストーリーを作る
数字の羅列だけでは人は動きません。審査担当者も人間であり、「この院長ならやり切れる」という確信を持てるかどうかが判断に影響します。院長の医師としての専門性・地域とのつながり・開業の動機が、数字の裏付けとして機能します。
収支計画の「前提条件」を明記する
「1患者あたり単価○円と仮定した根拠は何か」「人件費率を○%とした理由は何か」を欄外に注記として添えるだけで、計画の説得力が格段に変わります。根拠のない数字を並べると、細かい質問に答えられなくなり、審査の場で信用を損ないます。
借入返済計画は手取りベースで試算する
「営業利益が出ているのに返済できない」という事態が実際に起こります。EBITDAから設備投資・借入返済・税金・院長個人の報酬を引いた実質フリーキャッシュフローをシミュレーションし、手元に最低でも月商1〜2ヶ月分の余裕資金が残る計画になっているか確認してください。
開業1〜3年目によくある事業計画書の失敗パターン
開業後の経営支援に関わる中で、繰り返し目にする失敗があります。計画書を書く前に知っておくことで、同じ轍を踏まずに済みます。
- 患者数が計画の60%で止まった時の運転資金を確保していない:開業初期の口コミ形成には最低でも3〜6ヶ月かかります。その期間の赤字分を最初から融資額に組み込んでおくことが必要です。
- 採用コストを過小評価している:看護師・医療事務の採用は求人媒体費だけで数十万単位になることがあります。離職が重なると、採用費だけで計画収益が吹き飛ぶことも珍しくありません。
- 診療報酬改定の影響をシナリオに入れていない:診療報酬は2年ごとに改
参考情報:厚生労働省/中央社会保険医療協議会(中医協)
よくある質問
- Q. 事業計画書は開業前にどのタイミングで作成すればよいですか?
- 金融機関への融資申請を行う場合、物件契約や医療機器の発注より前に提出を求められるケースがほとんどです。開業予定日の6〜12ヶ月前には骨格を完成させ、商圏調査や収支シミュレーションを反映した形で仕上げることをお勧めします。早めに着手することで、計画の修正余地も生まれます。
- Q. 患者数の見込みをどうやって数字に落とし込めばよいですか?
- 国勢調査や住民基本台帳で商圏人口と年齢構成を把握したうえで、同診療科の受療率(患者調査・厚生労働省)を掛け合わせることで需要の推計値が算出できます。さらに近隣競合院数で按分し、ベースケースと悲観ケースの2パターンを用意すると、審査担当者に対して根拠のある数字として説明できます。
- Q. 日本政策金融公庫と民間銀行では、事業計画書の書き方を変えるべきですか?
- 基本構成は共通ですが、日本政策金融公庫は「創業者の経歴・動機・地域貢献性」を重視する傾向があるため、院長の医師としての実績や地域医療への想いを丁寧に記載することが効果的です。民間銀行はキャッシュフローと返済能力の数値的裏付けをより厳しく見るため、月次返済シミュレーションと運転資金の根拠を厚めに示すと評価が高まります。
References
- 厚生労働省. 第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告-令和5年実施-. 中央社会保険医療協議会. 厚生労働省
- 厚生労働省. 令和2年患者調査(傷病別受療率・推計患者数). 厚生労働省
- 厚生労働省. 令和4年(2022年)医療施設(動態)調査・病院報告の概況. 厚生労働省
- Matsumoto M, et al. Geographic distribution of physicians in Japan and factors associated with rural practice: a longitudinal study. Hum Resour Health. 2010;8:19. PubMed
- Kawaguchi H, et al. Financial sustainability of small clinics in Japan under the fee-for-service insurance system: a cross-sectional analysis. BMC Health Serv Res. 2019;19:341. PubMed
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この記事を書いた人古川 瑞紀合同会社Mizu 代表
看護師・MBA(経営学修士)クリニックの運営支援(経営・マーケティング・人事マネジメント)、保険診療クリニックへの自費診療導入、電子カルテやシステム導入まで幅広く対応。単なる助言ではなく、現場にあわせて伴走するスタイル。
現場もわかる、経営もわかる——その両面の視点で、再現性のある仕組みづくりと長期的な成長を支援します。





