【院長必見】クリニックのスタッフ採用方法5つと定着率を上げるコツ
最終更新日:2026.06.23
クリニックのスタッフ採用、なぜ「普通に募集するだけ」では上手くいかないのか
「求人を出してもなかなか応募が来ない」「採用してもすぐ辞めてしまう」「面接では印象が良かったのに、入ってみると思っていた人と違った」——クリニック経営者からこうした声を聞く機会が、非常に多くあります。スタッフ採用はクリニック運営の根幹でありながら、多くの院長・事務長が体系的な採用戦略を持てていないのが実情です。この記事では、看護師として臨床現場に立ち、医療法人の事務局長として採用実務にも携わり、現在は複数のクリニック経営を支援してきた筆者・古川瑞紀が、現場目線と経営目線の両方から、クリニックのスタッフ採用方法を徹底解説します。
クリニック採用が難しい本当の理由——医療業界特有の構造的背景
一般企業の採用と医療機関の採用は、根本的に異なる難しさがあります。まず、医療職には免許・資格要件があるため、応募母集団そのものが限られています。看護師・医療事務・受付・診療放射線技師・臨床検査技師など、職種ごとに求める資格が異なり、「人さえいれば誰でも良い」という採用は成立しません。
次に、クリニックはリソースの問題から、大手病院のような採用ブランドを持てないケースがほとんどです。日本看護協会の調査でも、看護師の就業先選択において「職場の雰囲気・人間関係」を重視する傾向が強く報告されています[1]。つまり、求人票の条件面だけで勝負しようとすると、大病院や待遇の良い大手クリニックチェーンに負けてしまいます。
さらに、医療業界は口コミ・人脈による情報伝播が非常に速い業界です。「あのクリニックはスタッフがすぐ辞める」「院長のマネジメントが厳しい」といった評判は、地域の看護師・医療事務コミュニティにあっという間に広まります。一度ついたネガティブな評判は、求人媒体にお金をかけても払拭しにくいのが現実です。
実際に運営に携わる中で強く感じるのは、採用を「単発のイベント」として捉えているクリニックほど、同じ失敗を繰り返しているという点です。採用は「人事戦略」であり、経営戦略の一部として継続的に設計・改善していくものです。この認識の転換こそが、採用改善の第一歩になります。
採用方法の全体像——クリニックが使える主な採用チャンネルと特徴
クリニックのスタッフ採用には、大きく分けて複数のチャンネルがあります。それぞれ特徴とコスト・向き不向きが異なるため、自院の規模・予算・求める職種に合わせて組み合わせることが重要です。
①求人媒体(求人サイト・求人誌)
看護師向けであれば「ナースではたらこ」「看護roo!」「マイナビ看護師」、医療事務・受付向けであれば「Indeed」「タウンワーク」「医療ワーカー」などが代表的です。掲載費または成果報酬型の費用が発生しますが、応募母集団が広く、短期間で複数名への接触が可能です。ただし、費用対効果にばらつきがあり、小規模クリニックでは広告費が重荷になることもあります。
②人材紹介会社(エージェント)
成功報酬型で、採用決定時に年収の20〜30%程度の紹介料が発生するケースが多いです。候補者の事前スクリーニングがされているため採用担当の工数を削減できる反面、費用が高額になりやすく、紹介会社経由の人材は「転職に慣れている=次の転職もしやすい」傾向もあります。長期定着を期待するポジションには、過度に依存しすぎないことが賢明です。
③ハローワーク
無料で利用できる公共職業安定所を通じた採用です。コストをかけられない開業直後のクリニックや、医療事務などのポジションでは一定の効果があります。ただし母集団の幅が広く、医療職専門の紹介機能は限定的です。
④リファラル採用(紹介・口コミ)
現職スタッフや知人からの紹介による採用です。文化的フィットが高く、定着率が上がりやすいという特徴があります。ただし、紹介者との関係性が退職時に複雑になるリスクもあるため、採用後のフォロー体制が重要です。
⑤自院ホームページ・SNSからの採用
採用専用ページを整備し、クリニックの雰囲気・理念・スタッフの声を発信することで、自院に共感した求職者を直接呼び込む方法です。初期コストはかかりますが、長期的には採用コストの削減と質の高いマッチングが期待できます。特に美容皮膚科・美容外科などSNSとの親和性が高い診療科では、InstagramやX(旧Twitter)を活用したブランディングが採用にも直結することがあります。
採用チャンネル比較表
| 採用方法 | 費用感 | 母集団の広さ | 定着率への影響 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|---|
| 求人媒体(サイト) | 中〜高(掲載料) | 広い | 普通 | 短期で複数名採用したい時 |
| 人材紹介会社 | 高(成功報酬) | 中程度 | やや低め | スクリーニング工数を省きたい時 |
| ハローワーク | 無料 | 広い(専門性低め) | 普通 | コスト最小化・医療事務ポジション |
| リファラル(紹介) | 低〜中 | 狭い | 高め | 文化的フィットを重視したい時 |
| 自院HP・SNS採用 | 低(運用コストのみ) | 中程度 | 高め | 中長期的なブランディング採用 |
求人票の作り方——「見てもらえる」「応募したくなる」設計の実務
採用チャンネルを整えても、求人票そのものが魅力的でなければ応募にはつながりません。クリニックの求人票でよく見られる課題は、「給与・勤務時間・休日」だけを淡々と記載した、どこにでもある内容になっている点です。
求職者が求人票を見る際に最も知りたいのは、「このクリニックで働くと、自分の生活・キャリアはどうなるか」というイメージです。そのためには、以下の要素を意識して記載することが効果的です。
- クリニックのビジョン・診療理念:院長がどんな医療を提供したいのか、どんな患者さんと向き合っているのかを具体的に
- チームの雰囲気・スタッフ構成:「30代スタッフが多く、子育て中のスタッフも在籍」などリアルな情報
- キャリアパス・成長機会:研修制度・資格取得支援・昇給の仕組みがあれば明示
- 働きやすさの具体的根拠:「育休取得実績あり」「残業は月平均◯時間程度」など数値があると信頼性が上がります
- 求める人物像の明確化:スキルだけでなく「こんな価値観の人と一緒に働きたい」というメッセージ
医療広告ガイドラインとの関係では、求人票は基本的に「採用広告」であり医療広告規制の直接の対象外ですが、クリニックの公式ホームページ内に掲載する採用ページは、医療機関のウェブサイトとして適切な情報管理が求められます。診療実績の誇張や比較優良広告に当たる表現(「地域No.1」「最高水準の医療」など)は避けましょう[2]。
事務局長として採用に携わっていた頃、求人票の文言を「条件の羅列」から「クリニックのストーリーを伝える文章」に変えるだけで、応募数が増えた経験があります。特に、院長の言葉を直接引用したメッセージを加えると、求職者から「ここで働きたいと思った」という声が届くようになりました。
面接で本当に見るべきポイント——採用ミスマッチを防ぐ実践的チェック
採用プロセスの中でもっとも重要でありながら、もっとも属人的・感覚的になりがちなのが面接です。「感じが良かったから採用したが、入ってみたら全然違った」という経験のある院長・事務長は少なくないはずです。
面接では、求職者の「今後の目標」や「志望動機」を聞くことが多いですが、これだけでは適性を見抜くには不十分です。採用を重ねる中で、私自身が気をつけるようになったポイントが3つあります。
見抜くべきサイン①:前職へのネガティブな発言
私が今まで採用を行ってきた際に、前職へのネガティブな発言をする方は、環境が変わっても同様の発言をする場合があると考えています。自分自身の問題と環境の問題を混同している方は、新しい職場になっても問題を起こすケースがあります。前職への不満を聞くことは面接で自然な流れではありますが、「職場が悪かった」「スタッフが合わなかった」などの発言が続く場合、「では今の状況をどう改善しようとしましたか?」と掘り下げてみると、その方の問題解決スタイルが見えてきます。
見抜くべきサイン②:目標を丁寧に語るが、行動計画がない
今後のクリニックでの目標を丁寧に語る方も、意外に注意が必要です。目標はいくらでも言葉にできます。それを実際に行動に移せるかどうかがポイントです。聞くなら「今後の目標は何ですか」よりも、「今までどのような目標を立て、それに向けてどのように行動計画を立て、評価してきましたか」と聞いたほうが良いです。「頑張ります」はいくらでも言えますが、過去の事実は変えられません。行動の実績を聞くことで、その方の本質的な仕事への向き合い方が見えてきます。
見抜くべきサイン③:短期転職を頻繁に繰り返している
クリニックを点々としている方、転職歴が非常に頻回(1年に1回程度)の方は注意が必要です。短期で職場を変える背景には、本人側の要因が潜んでいることが多く、自院でも同じパターンを繰り返す可能性があります。もちろん、結婚・引越し・家族の事情など合理的な理由がある場合もありますので、「転職が多い=即不採用」とするのではなく、その理由を丁寧にヒアリングしたうえで判断することが重要です。
面接の精度を上げるための実践的な方法として、構造化面接(質問項目を事前に統一する)を取り入れることをお勧めします。面接官が変わるたびに質問内容がバラバラになると、候補者の比較ができません。評価軸(例:コミュニケーション能力・業務への誠実さ・チームへの適応性)を決め、それぞれに対応する質問を準備しておくと、属人的な「なんとなく良さそう」という判断を減らせます。
面接チェックリスト
- ✅ 前職・前々職の退職理由を具体的に聞けているか
- ✅ 前職へのネガティブな発言の有無・内容を確認したか
- ✅ 「今後の目標」だけでなく「過去の行動実績」を確認したか
- ✅ 転職回数・転職間隔を確認し、理由を丁寧にヒアリングできたか
- ✅ チームで働いた経験・具体的なエピソードを聞けたか
- ✅ クリニックのビジョン・診療方針について応募者の理解度を確認したか
- ✅ 勤務条件(残業・休日対応・シフト)について相互認識の確認ができたか
- ✅ 複数の面接官が同じ評価軸で評価できているか
- ✅ リファレンスチェック(前職への確認)の実施・検討はしたか
- ✅ 採用可否の判断理由を記録として残しているか
採用後の定着率を上げる——入職前後のフォロー体制が採用コストを左右する
採用がうまくいっても、入職後3ヶ月以内に退職してしまうケースは医療機関でも決して珍しくありません。厚生労働省の調査でも、医療・福祉分野における離職率は他業種と比較して高い水準が続いており、採用と定着はセットで考える必要があります[3]。
定着率を下げる主な原因として、現場では以下が挙げられます。
- 入職前の情報と実際の職場環境のギャップ:求人票や面接で伝えた内容と実態が乖離している
- オンボーディング(入職後教育)の不足:「見て覚えて」文化が残っているクリニックは、新人が孤立しやすい
- フィードバック・評価の仕組みがない:頑張っても評価されないと感じると、モチベーションが急降下する
- 院長・管理者とのコミュニケーション不足:「何かあったら言って」は言いやすい環境がなければ機能しない
入職後の定着を高めるために、特に効果的なのが「入職後30日・60日・90日の節目面談」です。短いサイクルで直接話す場を設けることで、早期の不満・不安をキャッチし、退職を防ぐことができます。看護師として現場にいた頃の経験からも、「誰も気にかけてくれない」という孤立感が退職の引き金になるケースは非常に多いと感じています。
また、採用コストという観点から見ると、1名の看護師を人材紹介経由で採用した場合、紹介料だけで数十万円になることがあります。その費用をかけて採用したスタッフが半年で退職してしまえば、また同じコストが発生します。定着率1%の改善は、採用コストの大幅な削減に直結します。採用は「入口」だけでなく「出口」まで設計することが、経営上も非常に重要です。
院長・経営者が陥りやすい採用の落とし穴——現場視点と経営視点からの考察
経営支援の現場で何度も目にしてきたのが、採用に関する院長側の「思い込み」です。善意から来るものであっても、それが採用ミスマッチや定着率低下の原因になっているケースがあります。代表的なものを整理します。
落とし穴①「経験年数が長い=即戦力になる」という思い込み
看護師・医療事務問わず、経験年数が長くても、クリニックという小規模・多職種連携の環境に適応できるかどうかは別の話です。大病院の急性期病棟で10年キャリアを積んだ看護師が、クリニックの外来業務に慣れるまで苦労するケースは珍しくありません。「経験年数よりも適性・柔軟性」を重視した見極めが求められます。
落とし穴②「急いでいるから多少妥協しよう」という採用
人手不足の状況では「誰でも早く来てほしい」という焦りが生まれます。しかし、ミスマッチのある採用を急いで行うと、短期退職・クレーム・チームの雰囲気悪化という二次被害が発生します。特に医療機関では、スタッフ間の信頼関係が患者さんへのサービス品質に直結するため、採用基準の妥協は慎重に判断すべきです。
落とし穴③「採用したら終わり」という感覚
美容外科・美容皮膚科の経営支援先で実際に見てきた課題の一つが、採用後のフォロー体制の薄さです。採用担当(多くの場合は院長または事務長)が採用そのものに力を使い切ってしまい、入職後のフォロー・育成が後回しになるパターンです。採用プロセスと育成プロセスを一体として設計することが、真の「採用成功」につながります。
落とし穴④「院長自身がボトルネックになっている」ケース
院長のコミュニケーションスタイルや診療方針が明文化されておらず、スタッフが「何を期待されているかわからない」状態になっていることがあります。採用条件を整える前に、まず「うちのクリニックはどんな人に来てほしいのか」「どんな医療を提供したいのか」を言語化することが先決です。この言語化が求人票にも面接にも育成にもつながっていきます。
よくある質問
Q. 小さなクリニックでも採用ブランディングは必要ですか?
A. 必要です。むしろ小規模クリニックこそ、採用ブランディングが差別化の武器になります。大病院には給与・福利厚生で勝てない分、「院長のビジョンへの共感」「アットホームな職場環境」「特定の診療領域に特化できる」といった独自の価値を発信することで、自院に合った人材にリーチできます。ホームページの採用ページを整備し、スタッフの声を掲載するだけでも効果が出るケースがあります。
Q. 面接は院長一人でやるべきですか?それとも複数人でやるべきですか?
A. 可能であれば複数人での面接を推奨します。院長一人の場合、どうしても主観的・感情的な判断が入りやすくなります。事務長や先輩スタッフが同席することで、「院長は好印象だったが事務長は違和感を持った」という複数視点での評価が可能になります。特に現場スタッフとの相性は、実際に一緒に働く先輩スタッフの感覚が参考になることも多いです。
Q. 人材紹介会社を使うべきか、求人媒体にすべきか迷っています。
A. 採用にかけられる工数と予算によって判断が変わります。採用担当者のリソースが少なく、スクリーニングの手間を省きたい場合は人材紹介会社が有効です。一方で、採用コストを抑えたい場合や、幅広く母集団を集めたい場合は求人媒体が適しています。どちらか一方に絞るより、ポジションや緊急度に応じて使い分けるのが現実的です。また、中長期的には自院ホームページからの応募経路を育てることで、採用コストの構造的な削減につながります。
Q. 採用した後すぐ辞めてしまう場合、何が原因として多いですか?
A. 最も多いのは「入職前に聞いていた内容と実際が違う」というギャップ問題です。次いで、「職場の人間関係」「育成・フォロー体制の不足」が続きます。面接時に職場環境・業務内容・人間関係について正直に伝えること(ネガティブな点も含めて)が、ミスマッチ退職の予防につながります。採用後の早期面談を定期的に実施することも、退職兆候の早期キャッチに有効です。
Q. 医療事務スタッフと看護師では採用の進め方を変えるべきですか?
A. 基本的なプロセスは同じですが、活用すべき採用チャンネルと見るべき適性は異なります。看護師採用では資格・臨床経験の確認に加え、クリニックの診療スタイルへの適応力を重視します。医療事務では、接遇・コミュニケーション能力・レセプト経験の有無が重要です。また、看護師は専門職系の求人媒体・紹介会社が有効ですが、医療事務はIndeedやハローワークなどの汎用媒体でも一定の母集団が集まりやすい傾向があります。
まとめ——採用は「一発勝負」ではなく「仕組みをつくる経営活動」
クリニックのスタッフ採用は、求人を出せばなんとかなる時代ではなくなっています。採用チャンネルを適切に組み合わせ、魅力的な求人票を整備し、面接で本質的な適性を見極め、入職後の定着まで設計する——これらが一体となって初めて「採用の成功」といえます。
そして、採用で最も避けたいのはミスマッチです。急ぎ採用・条件だけの採用・面接の感覚頼みは、結果的に再採用コストと現場の疲弊を生みます。採用を「経営戦略の一部」として継続的に改善していく姿勢が、クリニックの安定した運営と成長を支えます。
採用の仕組みをつくることは、一度に完成するものではありません。小さな改善——求人票の文言を見直す、面接質問を統一する、入職後面談を導入する——を積み重ねることが、半年後・1年後の採用力の差になって現れます。ぜひ今日から取り組める一歩を踏み出してみてください。
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参考文献
- 日本看護協会『病院看護実態調査』2023年 https://www.nurse.or.jp/
- 厚生労働省『医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書』2018年 https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省『令和4年雇用動向調査結果』2023年 https://www.mhlw.go.jp/
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看護師・MBA(経営学修士)
看護師として10年以上、脳外科・循環器内科の急性期病棟、内科クリニック、自費訪問看護ステーションの現場実務を経験。看護師として働きながらMBA(経営学修士)を取得し、広告代理店でマーケティングを実践した後に独立。並行して、美容外科・美容皮膚科クリニックの経営・事務局を担い、複数の医療法人をサポートしながら、オペレーション設計・マーケティング・人事マネジメントの3領域で「仕組み作り」を強みに、クリニックの売上向上・経営改善に貢献してきた。
現在は合同会社mizu代表として、開業医・クリニック院長・医療法人向けに、クリニック開業支援/経営改善/集患・MEOマーケティング/採用支援・人事評価制度設計/電子カルテ・予約システム導入/自費診療メニュー設計まで一気通貫で伴走する医療経営コンサルティングを展開。オペレーション・マーケティング・人事の3軸で再現性のある仕組みを設計することを得意とし、美容医療(美容外科・美容皮膚科の経営/事務局)・保険診療(内科)・在宅医療(自費訪問看護)の現場経験と医療法人運営支援の経営経験を併せ持つ医療コンサルタントとして、クリニックの長期的な売上成長と組織づくりを支援している。