コラム

クリニックのスタッフが定着しない本当の理由と改善策

「また辞めると言ってきた」

「求人を出しても人が来ない」

「ようやく育てたと思ったら退職届が……」

このページをご覧になっているということは、スタッフの定着に悩み、疲弊しきっている院長先生がほとんどではないでしょうか。

私は看護師として10年以上、急性期病院からクリニックまで様々な現場を経験し、現在は医療経営コンサルタントとして多くの開業医の方々をご支援しています。

その立場から正直に申し上げます。スタッフが定着しないクリニックには、ほぼ共通した「構造的な問題」があります。

そして残念なことに、その問題の多くは院長先生自身では気づきにくいものです。

この記事では、現場の実体験とコンサルティングの知見をもとに、スタッフが辞める本当の理由と、院長先生がすぐに着手できる具体的な改善策をお伝えします。

「給料が低いから辞める」は、実は表面的な理由に過ぎない

退職理由のアンケートでは「給与への不満」が上位に来ることが多いのですが、私がコンサルで実際にスタッフから直接ヒアリングすると、「本音は別のところにある」ケースがあります。

ある美容クリニックでの話です。年間で3〜4人が辞め続け、常に求人を出している状態でした。

院長先生は「うちは地域でも給与水準は高い方だ」とおっしゃっていました。

確かに時給を調べると近隣相場より100〜150円は高い。

それでも人が定着しない。スタッフへのヒアリングで出てきた言葉は、

「院長に相談しても『それはあなたの仕事でしょ』と言われる」

「ミスをしたとき、患者さんの前で叱られた」

「何をどこまでやれば評価されるのか全くわからない」

というものでした。

給与はあくまで「最低条件」であって、定着させる力はありません。

スタッフが本当に求めているのは、

「この職場で働くことへの安心感」と「自分が認められているという実感」です。

スタッフが定着しないクリニックに共通する5つの構造問題

①「言われなければわからない」評価基準の不透明さ

何をすれば昇給するのか、どう頑張れば認められるのかが曖昧なクリニックでは、スタッフのモチベーションは確実に下がります。「院長の気分で評価が変わる」と感じさせてしまうと、優秀な人ほど早く去っていきます。

②オンボーディング(入職初期対応)が存在しない

「見て覚えて」「とにかくやってみて」文化が根強いクリニックは要注意です。

私自身、看護師として転職した際に「マニュアルがなく、先輩によって言うことが全然違う」経験を何度もしました。

入職後3ヶ月以内の離職は、この問題が主因であることがほとんどです。

③院長とスタッフの「対話の場」がゼロ

診療が終わればそのまま解散、定期的なミーティングも面談もない。これでは問題が表面化したときにはすでに「辞意が固まっている」状態です。スタッフは「この院長に言っても変わらない」と諦めてから退職届を出します。

④特定のスタッフへの業務集中

「あの子は仕事ができるから」と頼りすぎた結果、過重労働になり燃え尽きて退職。これは本当によく見るパターンです。しかも辞めた後に「あの人がいなければ回らない」と初めて気づく。属人化は定着の大敵です。

⑤「院長の言動」が職場の空気を決定している自覚がない

院長先生のちょっとした一言、態度、表情が、スタッフの心理的安全性に直結します。忙しいときに発した一言が、スタッフの間で「やっぱりこの院長は怖い」と広がる。診察室の外での振る舞いにも、ぜひ意識を向けていただきたいのです。

今すぐ実践できる定着率改善の具体的ステップ

ステップ1:退職者・在籍者へのヒアリングを設計する

まず「なぜ辞めるのか/不満は何か」の実態を正確に把握してください。ただし、院長が直接聞いても本音は出ません。第三者(事務長や外部コンサルタント)を通じた匿名アンケートや面談が有効です。聞くべき項目は以下です。

  • 業務量・業務分担は適切か
  • 評価・給与に納得感があるか
  • 院長・先輩スタッフとのコミュニケーションに問題はないか
  • 入職時の説明と実態にギャップはあったか
  • 改善してほしいことを一つあげるとしたら何か

ステップ2:入職後90日のオンボーディング計画をつくる

「最初の3ヶ月で定着するかどうかが決まる」と言っても過言ではありません。以下のような簡単なチェックリストを作成するだけで、離職率は大きく改善します。

  • 入職1週目:クリニックの理念・ルール説明、業務の基本フロー共有
  • 入職1ヶ月目:業務習熟の確認、不明点の洗い出し面談(15分でOK)
  • 入職3ヶ月目:正式な評価面談、今後のキャリアについての対話

「こんな当たり前のことを」と思われるかもしれませんが、これを仕組みとして機能させているクリニックは、私の経験上ごく少数です。

ステップ3:「見える化」した評価制度を導入する

賞与や昇給の基準を言語化して共有してください。完璧な人事制度である必要はありません。「この項目がAになれば時給を○○円上げる」という簡単なものでも、「透明性」があるだけでスタッフの安心感はまったく変わります。

ステップ4:月1回の1on1面談を習慣化する

業務報告ではなく、「最近どう?困っていることは?」という対話の場です。院長が直接行うことで「自分のことを気にかけてくれている」という実感につながります。最初は照れくさいかもしれませんが、これを始めたクリニックでは半年以内に職場の雰囲気が変わったケースをも見てきました。コミュニケーションも大事な仕事です。

定着率改善のチェックリスト:今日から使えます

  • □ 評価・昇給の基準が文書化されているか
  • □ 入職後90日のサポートプランがあるか
  • □ 月1回以上、スタッフとの個別対話の場があるか
  • □ 業務マニュアルが整備されており、誰でも参照できるか
  • □ 特定スタッフへの業務集中が起きていないか
  • □ スタッフが院長に意見を言いやすい雰囲気があるか
  • □ 退職者へのヒアリングを実施し、次に活かしているか

まとめ:スタッフが定着するクリニックは「仕組み」で作られる

スタッフが定着しない問題は、給与を上げたり求人媒体を変えたりするだけでは解決しません。「安心して働ける環境」と「認められる実感」を仕組みとして整えることが根本的な解決策です。

院長先生お一人で抱え込まず、まずは今日のチェックリストで自院の現状を確認するところから始めてみてください。一つ一つは小さな取り組みでも、積み重ねることでクリニックの文化は必ず変わります。

「何から手をつければいいかわからない」「スタッフへのヒアリングを第三者に任せたい」「評価制度の設計をサポートしてほしい」という場合は、合同会社mizuへお気軽にご相談ください。看護師としての現場経験とMBAの経営視点から、貴院の状況に合わせた実践的なご支援をいたします。はじめての方には無料相談も承っておりますので、まずは一度お声がけいただければ幸いです。

この記事を書いた人
古川 瑞紀
合同会社Mizu 代表
看護師・MBA(経営学修士)

クリニックの運営支援(経営・マーケティング・人事マネジメント)、保険診療クリニックへの自費診療導入、電子カルテやシステム導入まで幅広く対応。単なる助言ではなく、現場にあわせて伴走するスタイル。

現場もわかる、経営もわかる——その両面の視点で、再現性のある仕組みづくりと長期的な成長を支援します。