コラム

クリニック残業代未払い対策|今日からできる5つの整備手順

クリニックの残業代未払いはなぜ起きる?院長が知っておくべき原因と対策を解説

「うちは残業なんてほとんどないから大丈夫」——そう思っている院長先生ほど、実は注意が必要かもしれません。

クリニックの労務トラブルは、診療が終わってからのカルテ入力や片付け、電話対応といった何気ない時間から始まることがあります。

スタッフが突然退職し、その後に未払い残業代の請求を受けた——そんな話は医療業界でも決して珍しくありません。

私は社会保険労務士や弁護士ではありませんので、法的な判断については専門家への確認をおすすめしますが、これまで複数のクリニック運営に関わる中で感じるのは、残業代トラブルの多くは「悪意」ではなく、「見えていなかった」「ルールが曖昧だった」ことから始まるということです。

この記事では、医療コンサルタントとしてクリニックの経営に関わった中で考えた残業代未払いが起きる背景と、今日から実践できる具体的な対策について、現場目線で解説します。

なぜクリニックで残業代未払いが起きるのか

クリニックで残業代トラブルが多発する背景には、業種特有の「時間管理のあいまいさ」があります。

病院と違い、労務担当部門が独立していないケースがほとんどです。院長が診察しながら経営も労務も兼任している構造が、見落としを生み出します。

「診療終了=終業」という誤解

診療時間が終わったからといって、スタッフの業務が終わるわけではありません。

診療後のカルテ整理や受付の締め作業、医療廃棄物の処理、翌日の準備、患者への折り返し電話などは、すべて業務の一部です。

院長が診察室を出た後にスタッフが何をしているのか、正確に把握できていないクリニックは少なくありません。

私自身、クリニック運営に関わる中で感じるのは、「院長の見えない時間帯」にこそ労務コストと労務リスクの両方が潜んでいるということです。

固定残業代・みなし残業の誤用

固定残業代制度を導入しているクリニックもありますが、制度設計や運用が適切でなければトラブルの原因になります。

契約内容や就業規則が曖昧なまま運用しているケースもあり、後から認識のズレが発生することがあります。

制度を導入する場合は、時間数や金額、超過した場合の取り扱いなどを明確にし、専門家へ確認することをおすすめします。

労働時間の記録が存在しない

タイムカードや勤怠システムを導入せず、シフト表だけで管理しているクリニックもあります。

しかし、実際の出退勤時刻が分からなければ、本当に残業が発生していたのか、どれくらい発生していたのかを確認することができません。

トラブルが起きた際も、双方の認識が食い違いやすくなります。

院長が見落としやすい残業時間の実態

ここまで読むと、「残業が発生しているのはクリニック側の管理不足」と感じるかもしれません。しかし、実際に複数のクリニック運営に関わってきた立場からすると、現場はそれほど単純ではありません。

本当に業務量が多く、人員不足によって残業が発生しているケースはもちろんあります。

一方で、診療終了後にスタッフ同士で雑談をしていたり、本来であれば診療時間内に終えられる業務を後回しにしていたり、優先順位の整理ができていないことで退勤時間が遅くなっているケースも見てきました。

また、院長が診療終了後の現場を把握していないことで、「少しゆっくりやっても分からない」「今日中に終われば大丈夫」という空気が生まれてしまうこともあります。

もちろん、これは一部の事例であり、すべてのスタッフに当てはまる話ではありません。

しかし、院長や管理者が業務量や業務時間を把握していない状態では、本当に必要な残業なのか、それとも業務の進め方に課題があるのかを判断することができません。

私自身、クリニックの業務改善に関わる中で、同じ業務でもスタッフによって所要時間が大きく異なる場面を何度も見てきました。

例えばカルテ入力ひとつ取っても、10分で終わるスタッフもいれば30分以上かかるスタッフもいます。

採血、点滴、オペ準備、患者対応、電話対応、会計処理なども同様です。

新人スタッフと経験豊富なスタッフでは必要な時間が違いますし、教育状況によっても差が生まれます。

だからこそ、

・その業務は本来どれくらい時間がかかるのか

・誰が担当しているのか

・教育の問題なのか

・業務設計の問題なのか

・人員配置の問題なのか

を切り分けて考えることが重要です。

残業代の問題は給与計算の問題だけではありません。

業務設計、人員配置、教育体制、そして現場マネジメントの問題でもあります。

今すぐ確認したい5つのチェックポイント

以下の項目を確認してみてください。

① 全スタッフの実際の出退勤時刻を客観的に記録できている

② 雇用契約書や就業規則に労働時間や残業の取り扱いが記載されている

③ 残業の申請や承認ルールが存在する

④ 管理者が診療終了後の業務内容を把握している

⑤ 業務ごとの標準時間や担当範囲が明確になっている

一つでも曖昧な部分がある場合は、改善の余地があります。

残業代未払いを防ぐ具体的な対策

勤怠管理を見える化する

まずは実際の労働時間を把握することから始めましょう。

高価なシステムである必要はありません。

クラウド型勤怠システムや打刻アプリなどを活用し、誰が何時に出勤し、何時に退勤したのかを記録できる状態を作ることが重要です。

業務時間を測定する

勤怠だけでなく、業務そのものを見える化することも大切です。

カルテ入力、電話対応、会計処理、オペ準備など、それぞれの業務にどの程度の時間がかかっているのかを把握します。

実際に測定してみると、思っていた以上に時間がかかっている業務や、改善余地のある業務が見えてくることがあります。

就業規則と雇用契約書を見直す

開業時に作成したまま更新されていないケースも少なくありません。

現在の運営実態に合っているかを定期的に確認することが大切です。

残業の申請・承認フローを整備する

残業が発生する場合は、事前申請や事後報告のルールを作りましょう。

ただし、ルールを作るだけでなく、管理者が現場を確認することが重要です。

スタッフが「言い出せない」環境が最大のリスクになる

私が見てきた現場では、労務トラブルの多くが「言えなかった」ことから始まっています。

残業が続いている。

業務量が多い。

改善してほしいことがある。

そういった声を院内で上げられないまま退職し、後から大きなトラブルになるケースは少なくありません。

定期面談や業務改善ミーティングなど、スタッフが意見を伝えられる場を作ることも重要なマネジメントの一つです。

まとめ|残業代未払いは労務管理だけの問題ではない

残業代未払いの問題は、単純に「残業代を払う・払わない」の話ではありません。

その背景には、

・業務量の問題

・人員配置の問題

・教育体制の問題

・業務設計の問題

・コミュニケーションの問題

が複雑に絡み合っています。

私自身、クリニック運営に関わる中で感じるのは、労務トラブルの多くは突然起きるのではなく、小さな違和感の積み重ねによって起きているということです。

だからこそ、問題が起きてから対応するのではなく、普段から現場を見ること、業務を見える化すること、そしてスタッフと対話することが大切だと感じています。

残業代未払い対策は、労務管理であると同時に、クリニック経営そのものを見直す機会でもあるのです。

この記事を書いた人
古川 瑞紀
合同会社Mizu 代表
看護師・MBA(経営学修士)

クリニックの運営支援(経営・マーケティング・人事マネジメント)、保険診療クリニックへの自費診療導入、電子カルテやシステム導入まで幅広く対応。単なる助言ではなく、現場にあわせて伴走するスタイル。

現場もわかる、経営もわかる——その両面の視点で、再現性のある仕組みづくりと長期的な成長を支援します。