クリニック ハラスメント 対策|院長が今日から始める防止と対応手順
最終更新日:2026.06.10
クリニックのハラスメント対策を後回しにしていませんか?
「うちのスタッフ同士のトラブルは、正直どこまで関与していいか分からない」「注意しようとしたら逆にパワハラと言われそうで怖い」——クリニックの院長先生から、こうした本音を打ち明けられることが増えています。
ハラスメント対策は、大企業の話だと思われがちです。しかし、2022年4月から中小企業にもパワーハラスメント防止措置が義務化され(厚生労働省・労働施策総合推進法)、クリニックも例外ではありません。義務化以降、クリニック規模の医療機関でも行政への相談件数は増加傾向にあります。
この記事では、クリニック特有のハラスメントの実態・起きやすい構造・具体的な防止策・対応の手順を、実務で使えるレベルで整理します。「何から手をつければいいか分からない」という先生が、読み終わったその日から動き出せるよう書きました。
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クリニックでハラスメントが起きやすい構造的な理由
少人数・密室・院長絶対の三重リスク
クリニックは多くの場合、スタッフが5〜20名程度の少人数組織です。人間関係が固定されやすく、問題が起きても「どこにも逃げ場がない」状況になりやすい。病棟で働いていた頃、部署間の異動や師長への相談という逃げ道がありましたが、クリニックにはそれがありません。
さらに、院長が医師として絶対的な権限を持つ構造上、院長自身の言動がハラスメントになっていても誰も指摘できない、という状況が生まれます。これは院長側に悪意があるかどうかの話ではなく、仕組みとして異議を唱えにくい環境が最初からあるということです。
「医療の常識」が一般社会とズレている問題
医療現場には独特の文化があります。「厳しく指導するのは患者のため」「先輩の言葉には従うのが当たり前」という価値観が、若い世代のスタッフには通じないケースが増えています。厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」(2022年)によると、過去3年間にパワーハラスメントを受けたと感じた労働者のうち、医療・福祉業は製造業や卸売業と並んで上位に位置しています。
「自分は指導のつもりだった」という認識と、「あれはハラスメントだった」という受け取り方のギャップが、クリニックでは特に大きくなりやすいのです。
スタッフ間ハラスメントを院長が把握しにくい構造
院長は診察室にいる時間が長く、スタッフルームやナースステーションで何が起きているかを把握しにくい。先輩看護師が後輩スタッフに対して行う陰口・無視・過剰な叱責も、院長の目には入らないまま積み重なっていきます。そして「スタッフが突然辞めた」という結果になって初めて、問題の存在に気づくパターンが非常に多い。
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クリニックで起きやすいハラスメントの種類と具体例
パワーハラスメント(パワハラ)
厚生労働省の定義では、①優越的な関係を背景にした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③労働者の就業環境が害されるもの、この3つを満たすものがパワハラとされています。クリニックで特に多いのは以下のパターンです。
- 診察室から出てきた院長が、スタッフの前でミスを大声で叱責する
- 「辞めていいよ」「あなたには無理」などの人格を否定する発言
- 特定のスタッフだけに仕事を与えない、または過剰に業務を集中させる
- 先輩スタッフから新人への「無視」「陰口」「仲間外れ」
セクシャルハラスメント(セクハラ)
医療機関は患者からスタッフへのセクハラも深刻な問題です。「患者さんだから我慢しなさい」と言ってしまえば、それ自体が院長によるハラスメントの加担になります。スタッフを守る姿勢を組織として明示することが、採用・定着の両面で重要です。
マタニティハラスメント(マタハラ)
少人数のクリニックでは、妊娠・育児休業の取得が「チームへの迷惑」として暗に圧力をかけられるケースがあります。育児・介護休業法の改正により、妊娠・出産の申し出をした労働者への個別周知と意向確認が2022年4月から義務化されており(厚生労働省)、対応漏れはリスクになります。
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ハラスメント防止に必要な「仕組み」の作り方
まず就業規則に明記する
ハラスメントを禁止する旨、および懲戒処分の対象になることを就業規則に盛り込むことが、法的にも第一歩です。「うちはそんな雰囲気じゃない」という感覚に頼るのではなく、文書として存在することで、抑止力と対応の根拠の両方が生まれます。
就業規則の作成・改定は社会保険労務士に依頼するのが確実です。医療機関の労務に詳しいSRと連携しているかどうかも、顧問選びの一つの判断軸です。
相談窓口を設置する(外部窓口が有効)
院内に相談窓口を置いても、「院長に筒抜けになるのでは」「言いにくい」と機能しないことがほとんどです。外部の社労士事務所やEAP(従業員支援プログラム)サービスを活用した第三者窓口の設置が、実際には機能しやすい。スタッフへの周知は口頭ではなく、掲示と書面での配布を合わせて行うことが重要です。
定期的なコミュニケーション機会の設計
月1回のスタッフミーティングを設けているクリニックは多いですが、「業務連絡の場」になっていることが大半です。「最近困っていること」「職場で改善してほしいこと」を安心して話せる場の設計が、ハラスメントの早期発見につながります。無記名アンケートを四半期に一度実施するだけでも、院長には見えていなかった現場の声が上がってくることがあります。
院長自身が「指導とハラスメントの境界線」を知る
厚生労働省が公開している「パワーハラスメント防止のための研修資料」や、各都道府県の労働局が提供する無料相談を活用することを勧めています。「私の指導はどこに当たるのか」を第三者視点で確認することは、院長にとって決して恥ずかしいことではありません。
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ハラスメントが発生した時の対応手順
ステップ1:事実確認を丁寧に行う
「◯◯さんに言われた」という訴えが来た時、即座に加害者とされたスタッフを呼んで問い詰めるのは厳禁です。最初は訴えた側の話を遮らずに聞き、メモを取り、日時・場所・発言内容・同席者を整理することから始めます。感情的な判断をしないために、事実と感情を分けて記録することが重要です。
ステップ2:双方のヒアリングを個別に実施する
被害を訴えた側、訴えられた側、目撃者(いれば)の話を、それぞれ個別にヒアリングします。ここでの注意点は、「どちらが正しいか」を最初から決めないこと。双方の認識のズレを把握することが目的です。ヒアリング内容は文書化し、院長が保管します。
ステップ3:専門家に相談する
ハラスメントが疑われると判断した場合は、顧問社労士または各都道府県の労働局「総合労働相談コーナー」(無料)に相談することを強く推奨します。院長が一人で判断・対処しようとすると、後に「対応が不適切だった」として二次的なトラブルになるリスクがあります。
ステップ4:再発防止策を明文化する
個別対応だけで終わらせず、同様の問題が起きにくい仕組みを作ることが重要です。ヒアリングを経て「業務分担の偏り」「コミュニケーション不足」などが背景にあれば、その構造を変える対策を文書に残します。
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ハラスメント対策でよくある失敗パターン
「注意できない院長」の問題
スタッフに問題行動があっても、「辞められたら困る」「波風を立てたくない」という心理から、注意できないままにしている院長は少なくありません。しかし放置は問題を大きくするだけです。注意しない院長の元では、ルールを守っているスタッフのモチベーションが下がり、むしろ組織全体が崩れていきます。
注意できない理由の多くは、「感情的にならずに伝える言葉が分からない」ことにあります。事実ベースで伝える「◯◯の場面で、□□という言動があった。それは就業規則の△△に抵触する」という形式を覚えておくだけで、ずいぶんと伝えやすくなります。
「最初の1回は様子見」の落とし穴
「今回は初めてだから」と見逃し続けると、「以前も同じことをしたが何も言われなかった」という事実が積み重なります。問題行動は最初の段階で記録を残し、対応したことを文書化しておくことが、後のトラブル対応において決定的に重要です。
「被害者保護」より「加害者保護」を優先してしまう
長く勤めている古参スタッフがハラスメントの加害者になっている場合、院長が古参側に配慮して被害者に「もう少し我慢できないか」と伝えてしまうケースがあります。これは被害者のさらなる傷つきになるだけでなく、後に法的リスクにもなりえます。年数や貢献度に関係なく、事実に基づいて公平に対応することが、組織の信頼を守ります。
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ハラスメント対策チェックリスト(今日から使える)
- 就業規則にハラスメント禁止と懲戒規定が明記されているか
- 相談窓口(外部窓口含む)が設置・周知されているか
- 妊娠・出産・育児休業に関する個別周知の手順があるか
- スタッフが話せる定期的なコミュニケーション機会があるか
- 問題行動への対応を記録・保管する習慣があるか
- 顧問社労士または相談できる専門家との連携があるか
- 患者からのスタッフへのハラスメントへの対応方針があるか
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よくある質問
- Q. 5人以下の小規模クリニックでも、ハラスメント対策の義務はありますか?
- はい、あります。2022年4月からパワーハラスメント防止措置の義務化はすべての事業主(規模を問わず)に適用されています(厚生労働省・労働施策総合推進法)。従業員が1人でも雇用していれば対象です。ま
参考情報:厚生労働省/中央社会保険医療協議会(中医協)
References
- Oku Y, et al. Workplace bullying and harassment among healthcare workers in Japan: a systematic review. Journal of Occupational Health. PubMed
- Bambi S, et al. Workplace incivility, lateral violence, and bullying among nurses: a review about their prevalence and related factors. Acta Biomed. 2018;89(6-S):51-79. PubMed
- Hogh A, et al. The consequences of workplace bullying for healthcare workers: a systematic review of the literature. Int J Environ Res Public Health. 2021;18(8):3995. PubMed
- 厚生労働省. 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(令和2年度). 厚生労働省
- Nielsen MB, et al. Workplace bullying and mental distress: a prospective study of Norwegian employees. Scand J Work Environ Health. 2012;38(6):555-562. PubMed
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この記事を書いた人古川 瑞紀合同会社Mizu 代表
看護師・MBA(経営学修士)クリニックの運営支援(経営・マーケティング・人事マネジメント)、保険診療クリニックへの自費診療導入、電子カルテやシステム導入まで幅広く対応。単なる助言ではなく、現場にあわせて伴走するスタイル。
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